中国メディア「虎嗅」から「Blizzardと決別、今後ネットイーズを牽引するのは誰?」を紹介します。
11月17日、ネットイーズは2022年第3四半期の決算を発表した。決算発表によると、ネットイーズの第3四半期の売上高は244億元(約4800億円)で、前年同期比10.1%増、株主に帰属する当期純利益は67億元(1100億円)となった。
数ある事業の中で、ネットイーズのゲーム事業は常に収益の絶対的な大黒柱となっている。
現在のゲーム業界の厳しい環境を考慮すると、第3四半期のネットイーズの業績は極めて堅調であったと言える。しかし、製品レベルに目を向けると、「夢幻西遊」などの比較的歴史が長いタイトルは安定しているとはいえ、さらなる成長を牽引するには古すぎる。また「ハリーポッター魔法の覚醒」や「ナラカ ブレードポイント」などのかつての代表作は予想以上に速く老化した。さらに「ディアブロ イモータル」の中国国内サービスも勢いが衰えてきており、ネットイーズの今後の展開は楽観視できるとはいえない。

また、中国国内のゲーム業界における「冬の時代」到来後、ネットイーズは少しずつ海外市場に目を向け、さらなる成長を求めており、テンセントが進めていた海外への投資という道を再現しようとしている。しかし、Blizzardとの協力は、ネットイーズにとって思ってもみなかった方向に進んでおり、海外進出の強化という道に影を落とす可能性がある。
ネットイーズの熱しやすく冷めやすいゲームたち
ネットイーズは「ヒット作」に不自由はしないが、これまでのヒット作は常に「短命」であった。
この運命の裏側には、ネットイーズが抱えている問題の核心がある。中国最大手ゲームメーカーのひとつであるネットイーズのゲームは、他社のゲームよりも高品質なものが多く、そして高品質なゲームをいくつも生産できる能力を持っている。これは中小規模のゲームメーカーでは不可能だ。
優れた品質と洗練された外観、そしてネットイーズが持つ膨大なユーザーベースによって、自社のゲームを常に「ヒット作」にすることができる。ネットイーズはこのスケールの強みを利用してヒット作を生み出してきた。昨年の第3四半期には、「ハリーポッター魔法使いの覚醒」「ナラカ ブレードポイント」などを相次いでリリースし、成長させてきた。
特に「ハリーポッター魔法使いの覚醒」はその非常に強力なIPを武器に、絶妙な画風と斬新なゲームプレイのおかげで、リリース当初はダークホース的なゲームタイトルとなったが、初期の爆発的な伸びはその後一度も起きなかった。
しかしネットイースは、自社で作り上げてきたヒット作たちを前にして、手にした「大鎌」を気軽に振り上げるようなことはしなかった。ネチズンたちのネットイーズのPay-to-Win(札束ゲーム)方針やその運営に対するクレームをあちこちで見かける。プレイヤーたちはゲームに対する新鮮味を失うと、「ハリーポッター魔法の覚醒」の強すぎる「課金」プッシュが目立ち始め、そしてゲーム自体が下降線を辿っていくのだ。
ネットイーズの立場からすれば、この運営方法には何の問題もない。結局、どんなゲームにもライフサイクルがあり、ロングランを実現するための運営に注力するよりも、「ヒット作」を生み出し続け、ピークが過ぎたら切り捨てた方が良いということだ。これが、近年のネットイースの新作ゲームの「熱しやすく冷めやすい」問題の原因である。
しかし、中国国内のゲーム業界の冬の到来とともに、ネットイーズのゲーム開発サイクルが必然的に遅くなったことで、意図したとおりの「ヒット作」を生み出すことができるようになった。
ネットイーズの当初の予想では、今年の後半はおそらくネットイーズとBlizzardが共同開発したスマホゲーム「ディアブロ イモータル」が今年最後の大作のリリースとして、大々的に広告を打ち出している。
しかしSNS上での批判や複数回の延期により、「ディアブロ イモータル」は世界市場では好調に推移しているものの、中国国内では話題性が低く、早くも失敗に終わろうとしている状態となりつつある。このような状況から、ネットイースはまだ本腰を入れていない「インフィニティ ラグランジュ」に目を向けざるを得ない状況となった。
SLG(戦略系)ゲームとしては、実は「インフィニティ ラグランジェ」は昨年8月に発売されていたが、当時は「ハリーポッター魔法の覚醒」や「ナラカ ブレードポイント」が勢いを増しており、ゲームカテゴリーが比較的マイナーなSLGの「インフィニティ ラグランジェ」に対してネットイーズは、リリース当初は大々的にプロモーションをかけていなかった。
「ディアブロ イモータル」の国内展開の「陥落」により、ネットイーズは窓際に追いやられたため、古いカードを新しいカードとして打ち出す必要が出てきたのだ。
Dataeyeのデータによると、今年6月、「インフィニティ ラグランジェ」は1200万ドル(約18億円)の広告予算でSLGカテゴリーのトップに位置し、中国版TikTok、ビリビリなどの動画プラットフォーム上で広告が繰り返し流れた。ネットイーズの第3四半期決算報告では、予想通り「インフィニティ ラグランジェ」が主力タイトルとして紹介されたが、広告に費やした金額を考えると、どうしても暗澹たる気持ちになってしまう。
そして、ネットイーズの第3四半期の動きをみていると、これまでの「やり方」に対する反発を反映しているのがわかる。これまでのやり方の問題に直面したネットイーズは、正しい解決策を見いだせなかったわけではなく、この「ナラカ ブレードポイント」ではやり方を変えようとしているのだ。
しかし、主役のPVPゲーム「ナラカ ブレードポイント」はより長いライフサイクルを持つべきであるのに、それができていない。 問題の本質は、ゲームを存続させるための「競技性」にあるのかもしれない。
アクション性の高いバトルロワイヤル系ゲームである「ナラカ ブレードポイント」のハードコアなゲームプレイの仕組みは、参入障壁が高く、プレイヤーが上達するためには多くの時間がかかる。しかし、「ナラカ ブレードポイント」の過剰な競争属性と「弱いものいじめ」現象により、プレイヤーの訓練プロセスを楽しくさせないばかりか、強い「いらだち」を与えてしまい、結果としてゲーム体験を大幅に低下させることになった。
このため、ネットイーズはまた、ライフサイクルを延長するためにゲームのトーナメントや多くのEスポーツ活動を開始したが、ゲームの仕組みによって制限され、「ナラカ ブレードポイント」トーナメントは勢いがなく、熱量を維持する役割を果たしていないばかりか、ちょうど同じカテゴリーの 「フォーオナー」同様、古いプレイヤーばかりが残り新規プレイヤーが全くいないという苦境に陥っている。
現在のネットイーズにとって、成長サイクルを取り戻すには、運営手法を変更し、「ナラカ ブレードポイント」の様な潜在的な急成長ルートを回避し、長く穏やかな成長が期待できる従来のルートに戻るしかないのかもしれない。

海外で「歩調を合わせる」ことを学ぶ
中国国内のゲーム業界の冬の時代において、海外に打って出ることが国内ゲームメーカーのメインテーマになっている。丁磊(ネットイーズ創業者兼会長)は、今年の第1四半期の決算説明会で、ネットイーズの海外市場シェアが40%から50%に達することを期待していると率直に述べている。
第3四半期の業績報告から、6ヶ月後、ネットイーズのゲームは海外市場で「ディアブロ イモータル」だけが辛うじて健闘している状態だ。
これが逆にネットイーズのゲームの海外進出の際の心の傷となっている。初期に日本市場に参入した「荒野行動」から、今年は世界的にまずまずの収益を得た「ディアブロ イモータル」まで、ネットイーズのゲームは常に海外への道で輝かしい実績を残してきたが、いずれも単体にとどまり、生態系を連鎖させることができていない。
特筆すべきは、海外市場において、ネットイーズはIPを通じてプレイヤーと繋がっていることを好むことだ。決算報告書によると、ネットイーズは2023年の「ハリーポッター魔法の覚醒」の海外リリースに向け、準備を進めているとのことだ。
客観的に見れば、自社IPが海外でそれほど影響力を持たないネットイーズにとっては近道だが、「ディアブロ イモータル」以前、ネットイースのIP活用は比較的乏しかったと言える。
例えば、「The Lord of the Rings: Rise to War」は、「ロード・オブ・ザ・リング」IPとのコラボで、海外のプレイヤーに刺さるタイトルのはずだったが、ネットイーズに安定した収益をもたらすことはなかった。「Marvel Super Wars」や「Marvel Duel」などのゲームでも同様のケースがみられた。
その背景には、現在のゲーム、特にネットイーズが好む映画やテレビのIPは、もはや成否を決める重要な要素ではなくなっているという論理がある。
通常、プレイヤーへの影響力が大きいゲームIPは独占権を持つ傾向があり、ゲームメーカーは作品の質を確保しIPの寿命を延ばすために、自由にライセンスするよりも海外企業との提携を希望する。
周知の通り、映画やテレビの有名なIPは海外のプレイヤーとある程度の関係を築くことができるが、ゲームとIPのコラボはかなり横行している。ネットイーズの「Marvel Duel」に関わった Marvel IPを例にとると、「EA」や「SQUARE ENIX」などのゲームメーカーを含め、それを元に開発されたゲームは数え切れないほどある。
一方、競争が激化する市場において、IPはせいぜい話題性を高めるための「点火剤」であり、成功への近道ではない。
例えば、同じくMarvelのIPをベースにした3Aゲーム「マーベル アベンジャーズ」は、発売前はプレイヤーから大きな期待を寄せられていたにもかかわらず、その品質の低さとサービスゲームの位置づけから「爆死」と言われ、開発元の「SQUARE ENIX」の松田洋祐社長は「残念な出来だった」とまで言っている。ポケモンというIPを持ち続けることで常に批判されてきた「GameFreak」も、新作「ポケットモンスタースカーレット」でオープンワールドに挑んでいる。
明らかに、IPとのコラボによるゲームがより一般化される傾向にある現在、低品質で不誠実なタイトルはもはやプレイヤーたちを納得させることができず、IPというスキンを被せたロジックはずっと前に終わっている。
この点において海外にIPの資産がないネットイーズの選択肢は少なく、出資か協業かの2つの道しかない。例えば、テンセントが過去に買収した「Riot Games」や「Supercell」は、そのまま「VALORANT」や「Clash of Clans」といった作品を生み出し、海外での収益拡大を担っている。
しかし海外進出に意欲的なネットイーズも「歩調を合わせること」を覚えたようだ。
2019年、ネットイーズは「Dead by Daylight」の開発元「Behavior Interactive」に出資し、「Dead by Daylight Mobile-NetEase」をリリースした。2021年には「Grasshopper Studio」を買収し、今年8月にはフランスのゲーム開発会社「Quantic Dream」を買収している。
しかし、「Behavior Interactive」と「Grasshopper Studio」は業界では一流とは言い難く、おそらくネットイーズの投資の面目を保つことができたのは、「Heavy Rain」と「Detroit: The Incarnation」を開発した「Quantic Dream」だけであろう。
早くから参入しているテンセントに比べ、ネットイーズは海外投資の黄金期を逃した感がある。
業界の競争が激しくなるにつれ、大手は品質目標を掲げてしのぎを削っており、数量的な優位性を持たないネットイーズは、老舗ゲームメーカーを回避し、海外のゲームメーカーのスタジオ設立を支援するなど、二番煎じで済まざるを得ないようだ。この1年で、名越稔洋、小林裕幸、ジェリーフック、グレッグストーンなど、業界の大物が続々とネットイーズに採用された。
しかし、現在、ネットイーズは別の道で立ち往生している。
現在よりも未来に大きな影響を与えるBlizzard社の喪失
2008年にBlizzard社とパートナーシップ契約を結んで以来、ネットイーズは「Blizzard依存症」に陥っていた。
国内市場におけるBlizzardの「顔」として、初期の「StarCraft 2」「World of Warcraft」「Hearthstone Legend」「Overwatch」など、Blizzardのゲームはネットイーズがコンソールゲーム切替えの「血を流す」時期の苦痛を乗り切ることを可能にした。
スマホゲームの分野でも、ネットイーズとBlizzardは「蜜月期」を迎えていた。「ディアブロ イモータル」の誕生に加え、スマホ版「World of Warcraft」の準備計画もあったそうだ。
しかし、スマホ版「World of Warcraft」の頓挫というニュースにより、この親密な関係が崩れることは必至と思われた。
決裂の理由については、Blizzardがネットイーズに対し、レベニューシェアの大幅な値上げを要求し、ネットイーズを国内に引き留めようとしているのではないか、であったり、Blizzardは、すでに羽振りの良いネットイーズを「賃金労働者」にすることを望んでいるのではないかという憶測が広まっている。すでに実績があり、フェアな「パートナー」を望むネットイーズは当然ながらこれらには同意できないだろう。
そして、これは間違いなく負け惜しみだろう。Blizzardの決算報告では、2021年のActivision Blizzardの収益に占めるネットイーズのゲームの割合は3%に過ぎないことが明らかになった。しかしこの発言は「Activision Blizzard」が行っていることに注目すべきだろう。
「コール オブ デューティ」の制作を繰り返してきたActivisionに比べ、Blizzardは近年「お粗末」と批判され、マイクロソフトの買収においては、Activisionの「おまけ」とからかわれたほどだ。
ネットイーズにとって、スマホゲーム分野の金の発掘において、現在の「Blizzard依存症」は徐々に改善されてきている。
一方、Blizzardのゲーム開発と運営能力は、2015年の「Overwatch」発売以降、大きく低下し、待望の「Warcraft III: Reforged」もプレイヤーたちのクレームの嵐に押され気味だ。つまり、Blizzardの影響力は昔とは違うということだ。
このことから、仮にネットイーズがBlizzardのゲームを中国国内で配信する権利を失ったとしても、せいぜいその肉を切る程度で、骨が断たれることはないだろう。ネットイーズは第3四半期決算で、2021年と2022年1~9月のネットイーズの純利益に占めるBlizzardのゲームによる純利益の割合がいずれも1桁台前半であることを明らかにした。
この数字から判断すると、現段階ではBlizzardの離脱がネットイーズのビジネスに与える影響は大きくないようだ。しかし、ゲームの海外進出という文脈では、Blizzardの損失による影響は今後に波及する可能性がある。
以上のように、ネットイーズはゲームメーカーへの投資や買収のほか、「消化しきれない」ほどの価値の高いゲームIPに直面した場合、もうひとつの方法として「共同開発」を挙げることができる。
Blizzardは、ネットイーズが海外に進出するための戦略的な重要なアンカーポイントであった。海外市場における「ディアブロ イモータル」の素晴らしい出来具合は誰の目にも明らかで、想像するに、もし「World of Warcraft」のスマホ版が頓挫しなかったなら、「World of Warcraft」を育て、多くの高品質ゲームタイトルがネットイーズに追加され、海外進出の道はスムーズなものになっていただろう。
しかし、今回離別したことですべてが無に帰した。現段階において、ネットイーズは海外進出を熱望するものの、手中にあるカードが十分に良いものかどうかはわからない。またその先の段階では、Nネットイーズが買収したいくつかの海外ゲームスタジオは海外進出の困難なルートを後押しでき、Blizzardの代替となり得るかどうかはまだ誰にもわからない。
おわり