時事ドットコムに「横たわり族が急増、若者に競争疲れ」という記事が上がっていた。文字通り、中国の若者が頑張らなくなった、という内容の記事でした。競争だけこそが近年の中国の脅威的な経済成長の源だったが、どうして「無気力な若者が爆増」しているのか考えてみたい。
時事ドットコムで「横たわり」と訳している元の中国語は「躺平(タンピン)」、この言葉は「体を横にする」を意味しますが、ネット上では「無気力、諦め、やる気ゼロ、ニート」的な意味で使われています。あと「躺平」と共によく使われる言葉に「内巻(ネイジュアン)」があります。意味は「答えがない競争」とか「無意味な競争」のような少し皮肉がこもった競争という意味です。
実は先日まで「躺平」という中国語を聞いたことがなかったため、少しググったところ、このネット用語は今年5月ごろから急に使われるようになったようです。ビリビリ動画で「躺平」のキーワードを検索してみると、確かに4月、5月の関連動画ばかりが出てきます。
無気力な若年層の急増の背景を、時事ドットコムの記事では「仕事上のストレス、家族のトラブル、経済的な困難」としているが、本当にそんなありきたりな理由が原因なのだろうか。もう少し掘り下げて考えてみようと思います。
「横たわる」原因は若者が置かれている環境によって全く異なる

富裕層の若者のケース(土豪、富二代)
金持ちの両親を持つ若者で「躺平」をしている場合には、そもそも働く意思がないという問題がある。大都市の中心地に家(主にマンション)を3軒も持っていれば、それだけで資産5億円は軽く超える。自分たちが使っていない2軒を賃貸に出せば、毎月の家賃収入が40〜50万円は入ってくるし、中国の富裕層は財テクに長けているため、他の投資(株や基金)によるリターンもそれなりにあるだろう。
世の中の過当競争に嫌気がさし、社会から距離を置いた生活をしても、十分に豊かな生活ができるだけの収入があるこの層はとてもラッキー。3軒以上の家を所有する都市部の富裕層はかなり多いため「躺平」を選ぶ若者もそれなりにいるはずだ。(家5軒、10軒所有者もざらにいるがキリがないため、ここでは割愛する)
今年に入り、平日の昼間にも関わらず、オシャレなブティックやカフェが並ぶフランス疎開エリアを散策している若い旅行者やカップルがやたら目につくようになった。ひょっとしたら彼らも「躺平」中なのかもしれない。

ミドル層の若者のケース
十分な資産と不労所得がある富裕層とは違い、この層の若者たちが「躺平」をしてしまうのが最も深刻な社会問題かもしれない。というのも、この層が一番の働き手であり、また全体に占める割合も大きいからだ。そしておそらくこれまでの人生で最も多くの競争(勝ち負け)を経験してきた若者もこの層だろう。
この層のほとんどの若者は理想と現実の大きなギャップに軽い絶望感を抱きながらも、我慢して働き続けないといけない。それでもほとんどの若者は少しでもより良い将来のために、日々真面目に仕事に向かうが、一部のわかってしまった若者は、親と同居している限り餓死することもないし、数年は少し自分が好きなことでもして生きていけると考え、「躺平」を始めるのかもしれない。
多くの日本人には理解できないほど中国の競争社会は熾烈なものだ。学生中にどれほど死ぬ気で勉強を頑張ってきても、上には上の天才・秀才が五万といる。なんとか大学に入れたとしても、国内トップ10大学か海外エリート大の帰国組でもなければ、一流企業への就職は難しい。なんとか滑り込んだ中小企業の仕事に就いたとしても、上海では家1つ買えない。
自分の家がないと恋愛をするのも難しい。(プロポーズができない)仕方がないから少しカッコいい車でも買うかと3ヶ月分の給料を払い教習所に通い、なんとか免許証は取ったものの、上海のナンバープレート額は200万円を越えており、しかも強力な運かコネでもない限り買う権利すら回ってこない。
今の仕事が自分には合っている、報酬や待遇には満足している、仕事を通してスキルや能力が高められる、こんな感想が持てる若者はかなり少ない気がする。ただこの層の若者は元々とても勤勉で、世の中の変化にも敏感であるため、一時的な「躺平」の後、社会の変化のタイミングを見てまた動き出すだろう。
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マス層の若者のケース
この層の若者たちは、厳しい環境下であっても生きていくために仕事を続けるしかない。「躺平」を選ぶイコール餓死に直結しかねないため、実はそれほど多くはないと見ている。農村や工場で働く若者と接する機会は私はあまりないが、都市部ではレストランやショップの店員、または中国版ウーバーイーツである「美团」「饿了吗」またはクロネコヤマトのような「快递」といった配達員として働く彼らだが、その働きっぷりを見る限り、「躺平」をしている暇はなさそうである。

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