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オンラインカジノ運営者たちの帰路(2)黄粱一炊の夢シアヌークビル編

前回までのあらすじ

落ちこぼれ少年だった阿K(アーケイ)が、カンボジアのシアヌークビルで運営されているオンラインカジノの盤兄(オンラインカジノ運営のボス)となり、故郷に一時帰国していた。田舎町での変わり映えのない生活に軽い絶望を感じていた主人公ともう一人の幼馴染の阿テンは、高級KTVの個室で阿Kから、彼が運営しているオンラインカジノの業務を手伝って欲しいと頼まれた。

オフショア・オンライン・カジノ運営者たちの帰路(1)」からの続き


決意

KTVからの帰り道、俺は久しぶりに地元の夜の街をじっくりと眺めることにした。深夜1時になっても繁華街はライトやネオンで照らされ、飲食店は賑やかな男女たちで溢れていた。ここ数年は地元にも高層マンションが増え、不動産が低迷しているとはいえ、価格はすでに庶民には手の届かないところまで上昇していた。少し遠くにある上棟したばかりのビルの最上階にはデカデカとした証券会社の電子看板が見える。高層ビルが立ち並ぶ市街地を流れる川は、あまりに静かで深い闇の中にあり、すべてを見守り、すべてを飲み込んでいるようだ。

自宅に着くと、朽ち果てた階段と薄暗いライトが、外の繁華街とは別の空間にあるように思えた。ドアをそっと押して家に入ると、母の咳が聞こえる。ここ数年、病気の治療のために、家族が家を買い換えるために貯蓄していたお金をほとんど使ってしまったが、母の病状はますますひどくなっているようだ。

上着を着て寝室から出てきた親父は背中がさらに猫背になっている。

「なんでこんなに遅いんだ」

「ああ……えっと、友達と食事に行ってたんだよ、昔の幼馴染たちと…」

俺は親父が苦手だった。

「一日中遊びふけて、家族の手伝いもしないのか? お前の以前のクラスメートの、阿Kだったか、彼はお前より出来が悪かったが、故郷に戻ってきて、両親に車をプレゼントしたと聞いたぞ?次は市内でマンションでも買うんじゃないか。お前ももう若くはない、もう少し家族の負担のことを考えるべきじゃないか」

親父の話が終わるのを待ってから、俺は黙って自分の部屋に戻った。

夜、外は静かで、俺はベッドに横たわりながら、阿Kにメッセージを送った。

「俺も一緒に行くよ」

出国

プノンペン国際空港に着くと阿Kは、「カンボジアは世界で2番目に汚職の多い国と言われている、でも俺たちはすべての政府部門にコネクションを持ってるんだ」と、そのまま税関を通過した。

阿Kはスーツケースを押しながら誰かと電話で話している。

カンボジアの首都プノンペンからは黒塗りの商用車で3時間ほど走り、シアヌークビルと呼ばれる港町まで送ってもらった。カンボジアの父の名を冠したこの小さな港はもともと、白い砂浜と青い海が広がる、静かで快適な港町だったが、ここ数年は、世界中から観光客と投資が集まってきていた。周りを見渡すと、ホテルやカジノ、バーやKTVの看板が至る所にあり、街には中華レストランや病院まで見える。

まるでまで国内から出ていないかのような錯覚に陥るほどだ。

事務所に向かうと、階下で同僚が出迎えてくれた。

「彼は我が社の管理部門の責任者。大B(ビッグビー)と呼んでやってくれ」

「二人は2ヶ月間、まずプロモーション部門に行って仕事に慣れてくれ、その部門が会社の最前線だ。その後、お前は管理部で財務を担当してもらいたい」

阿Kが俺の顔を見て言った。

「今夜は外で飯でも食おう」阿Kは着信音が鳴ったスマホをポケットから取り出し、「忙しいから後は頼む」と俺たち二人を大Bに託した。

大Bは背が高く体も大きい。両腕に刺青が入って、笑っていないときはかなり怖い顔をしている。今、会社には70人ほどいて、管理部門、人事部門、プロモーション部門、カスタマーサービス部門に分かれている小規模なものだそうだ。管理部門は財務やセキュリティ、人事部門はエンジニア採用や人事管理、カスタマーサービス部門は運営やプレイヤーからの問い合わせ対応、プロモーション部門はプレイヤーの開拓を担当する会社の中核で、プロモーション部門のスタッフは平均月収が2万元と待遇も最高だという。

人がたくさん集まってくるのは当然だと俺は思った。

「各部署には、犬主管と呼ばれる上司がいて、犬主管が直属の上司になるぞ。各部署は十数人ずつのチームに分かれていて、この底辺のオペレーターたちはホウレンソウと呼んでいる」

大Bが説明した。

「それで、俺たちの主な仕事は、なに?」

阿テンが聞いた。

「ギャンブルで遊んでくれるプレイヤーの集客、まあプロモーションだ。今回の盤口(ハンディキャップ)は、阿K社長が一人で始めたもので、ついこの前まで彼がハンディキャップ担当者だったことを考えると、今この規模を実現できるなんて、社長は本当にやり手だ」

「客がいて自分たちが絶対勝てるの?自分たちが勝ったら、今度は客が遊びに来てくれなくなるんじゃないの?」

と俺は尋ねた。

「ハハハ、兄弟はカジノに行ったことがないようだ。十中八九プレイヤーが負ける!ギャンブルは人間の本質そのものだ。人間が自分の欲望に打ち勝つ方法はないのだから、俺たちが勝つのは決まってるんだ。それに俺たちには作菜刀(ツォツァイダオ)担当者もいるからな」

「作菜刀?」

「作菜刀は裏社会のスラングだ。ネットギャンブルやゲーム開発に携わるエンジニアのことをいう。国内でも優秀な人材たちだぜ。彼らが少し手を動かせば客のお金が理路整然と動くんだ」

大Bは歩きながらそう言って、寮の建物に案内してくれた。

「出国したんだ、みんな仲良く大儲けしようぜ」

「このビジネスをきちんと運営すれば、月に500万元ほどの純利益が出せる。まずは寮に行こう。空いている部屋は自由に使えるから休んでてくれ。そうそう、パスポートと身分証は俺に渡してくれよ」

巣窟

太陽が沈むと、まるでサファイアの上に金箔を重ねたように、青々とした海の上に残照が広がる。

車を運転しているのは大B、阿Kのボディーガードも兼ねていた。その道すがら、阿Kは「夜になると人を食うバケモノが出るんだよ!」と、一見地味なこの港町について教えてくれた。

「強盗、誘拐、殺人、薬物、まあ俺たちが考えもつかないだけで、何でもありだ。ここは頭がイカれちまってる港だよ! 夜外出する必要がなければ、出ない方がいいし、出る時は仲間と一緒がいいな!帮人妖(売春婦)には気をつけてね、ハハハッ」

「売春婦はどれもゴージャスじゃない?」

阿テンが言った。

「そうだぜ、足が長くて胸が大きいんだ。そんでお前の手をつかんで巨乳に当ててきてさ、そしたら数百ドルの恐喝が始まるんだ、まあそれはまだいい方で、中には銃を取り出して堂々と強盗する奴もいるからな」

目の前のこの静かな港町が、犯罪の巣窟であることに愕然とした。

夕食後、宿舎に戻るとすでに深夜になっていた。寮にいた6人は、阿テンを除いて皆知らない人ばかりだ。お互いをあだ名で呼び合い、善人には見えず、ほとんどが賭博で借金を作って国外に逃亡した人たちだった。ただ一人、小斉(シャオジー)と呼ばれていた細身の色黒で、無口のハタチにも満たないような男の子が異彩を放っていた。

課金

阿テンも小斉も同じプロモーション部門で、小斉と俺は同じチームで「犬推」と呼ばれるプロモーション業務が主な仕事だ。「犬推」には「天推(空中戦)」と「地推(地上戦)」がある。空中戦では会社がリード(見込み客)を用意し、大量のギャンブル好きな客のWeChatやQQのアカウントを入手し、ネットギャンブル経験者がサクラとなってうまく誘導する手法だ。

地上戦は自分たちでリードを開拓する方法で、ハードルは高いが、それに見合うインセンティブが手に入る。俺も小斉も手元にリードがなかったため、空中戦の手法に従うほかなかった。阿テンはリターンが大きい地上戦で新規顧客の獲得を試みることにした。

働き始めて1週間が経過した。俺はプロモーション手法を見よう見まねで覚えていった。上司から与えられた3つのQQアカウントと6つWeChatアカウント、それと大量の会話用テンプレートが入った圧縮ファイルを使い、チャット画面を通しさまざまな見込み客と接し、課金に誘い込む業務を毎日続けた。毎日9時に出勤し、窮屈な自分の席に座り、まともに休憩を取ることもなく11時間、まるでチャットボットのように働き続けたが、目標額には遠く及ばなかった。

時々、小斉と俺はトイレに行くときに一緒にタバコを吸った。

「クソー、またあの色鬼(ビッチ)!ろくに課金もしないくせに毎日俺に自撮り写真を送れってか、さっさと課金しないとブロックしちまうぞ!」

小斉はまだ19歳で、彼の疲れた目は、この年齢の青年が持つべきものではないように思えた。

「今月の目標もまた達成できなそうだ、俺はもう続けることができないのかな……」

彼は苦しそうに目を閉じた。

「ここから出たいと思わないの?」

俺は聞いてみた。

「抜け出せないよ、俺の身分証もパスポートも会社が持っている。辞めるには会社に違約金を払わなければならないし、金なんかないよ」

彼は自分の席に戻り、私は窓から海を眺め、戸惑った。

つづく


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