以前「中華メーカーの格安電気自動車って宏光以外にどんな車種があるの?」という記事を書きました。すでに日本でもそれなりの認知度がある「五菱宏光MINI EV」をはじめ、一部の中華メーカーは格安電気自動車市場にターゲットを絞り販売台数を伸ばしています。
まずは今中国で売れている電気自動車の車種を見てみましょう。

これは今年5月の中国での電気自動車の販売台数ランキングです。2位と3位のテスラ以外はすべて中華メーカーですね。ちなみに中国の電気自動車に詳しい方であれば気づくかもしれませんが、赤色でハイライトが付いている車種は「7万元以下の安価モデル」です。
今回はその恐るべき安さの秘密について解説します。
中国政府からの補助金があてにできなくなった
現在中国では20社を超える国産メーカーが電気自動車を作っていると言われていて、メーカーの大半は、政府からの補助金に依存した形で販売台数を伸ばしてきました。
「航続距離」を例に取るとわかりやすいかもしれません。
2017年以降、補助金政策の航続距離に対する要件が年々高くなっていて、自動車メーカーはこの要件を満たすために航続距離がより長いモデルをリリースしてきました。
2018年の補助金政策では2017年のものと比べて、航続距離300キロ以下の車種の補助金額が引き下げられ、逆に航続距離300キロ以上の車種の補助金額が引き上げられました。そして2021年は航続距離が300キロを超えない電気自動車については補助金が完全に打ち切られました。
これによりメーカーは航続距離を300キロ以上に上げ、中高級路線で補助金を受けか、または補助金を諦めて格安路線を突き進むかの選択が迫られたのです。
それではもう一度販売台数ランキングを見てみましょう。
1位の「宏光MINI」の航続距離は170キロ、4位の「長安ベンベンEV」は150キロ、5位の「広州汽車Aion S」は510キロ、6位の「BYD漢EV」は600キロ、7位の「チェリーeQ」は150キロ、といったように見事に二極化が進んでいるのがわかります。

必要なパーツも削ってコストカットする格安中華EV
では格安路線の車種はどのようにして価格を抑えているのか?ランキング4位の「長安ベンベンEV」を例にとってみましょう。
実はこのモデルには「長安ベンベンE-Star」という旧型があり、その後継モデルが「長安ベンベンEV」、つまり新型モデルです。一般的に新型は旧型から進化するものですが、この「長安ベンベン」においては新型のスペックは旧型と比べるとずいぶんと見劣りしているようです。
まずパーキングレーダーとブレーキアシストが排除され、ホイールはアルミからスチールに変更されました。エアコンはクーラー機能を無くしてヒーターのみとなり、さらには運転席と助手席のエアバッグもしっかり取り外されてしまいました。
では電気自動車の要であるバッテリーはどうでしょう。
これはさすがに取り外せないため、「三元系リチウムイオン」からより安価な「リン酸鉄リチウムイオン」に変更されました(航続距離は210キロから150キロに短縮)。急速充電も標準ではなくオプションでの追加になりました。
品質と性能を極限まで犠牲にして格安路線を突き進んでいる現状がおわかりいただけたのではないでしょうか。

そこまでコストカットして安全面は大丈夫なのか?
安全面、非常に心配です。
今朝ちょうど「中国の成都市で充電中の電気自動車300台が爆発炎上!」という情報をネットで見かけました。裏付け証拠が少ないため、本当か嘘かは判断できませんが、夏本番が近づいてきて、朝晩の気温は上がり続けています。過充電によってバッテリーが熱を持ち、火事につながる可能性は低いとはいえ、ありえる話です。
これだけの経費削減が車の随所に行われているということは、品質管理にも適切なコストが回っていないことは容易に想像が付きます。
街で元気よく走る「宏光MINI EV」を見かけると、「おっ、宏光走ってるな」と少しだけ嬉しい気持ちになりますが、自分が住むマンションの駐車場で見かけたら少しだけ複雑な気分になりそうです。