日本でも知名度が高い「五菱宏光」は、街乗りに適したコンパクトさと車両価格3万元(50万円ほど)という安さが市場で受け、中国でのEV販売台数の首位を独占し続けていますが、宏光シリーズ同様に「五菱」が一番力を入れているのが宝駿(バオジュン)シリーズです。その中でも特に「宏光」と同じミニタイプの「宝駿KiWi EV」が「宏光」に次ぐ人気車種になりつつあります。実際、この「宝駿KiWi EV」は上海でもちょくちょく見かけるようになってきました。
「宝駿KiWi EV」についてはこの記事で紹介しています。
宏光や宝駿のように「破壊的な価格」や「斬新なデザイン」で次々とヒットシリーズを生み出す五菱(正式名称は上汽通用五菱汽車)ですが、同メーカーは実は海外展開にもかなり積極的で、特に自動車消費市場が今後伸びるであろう中南米エリアに特に力を入れているそうです。
中南米では宝駿(バオジュン)シリーズはGM(ジェネラル・モーターズ)ブランドとして展開しています。
今回は、今かなりイケている「五菱」が「ミニEV」だけでなく、トヨタの牙城とも言うべき「水素自動車の開発も推し進めている」という「黒馬公社」の記事を紹介します。

五菱が水素自動車を公開した。
この突然の発表を聞いた「黒馬公社」の最初の反応は「五菱はすでにそこまで進んでいるのか?」であったと同時に、様々な疑問が湧き上がった。
11月8日、上汽通用五菱汽車は新世代の「水素燃料電気自動車」を発表した。電気自動車の航続距離が不安材料となっている今日、800〜1000kmという航続距離が可能な水素燃料車には十分な強みがあり、さらに水素燃料車は排気ガスが水であり、環境にとても優しいこともポイントが高い。
今回、上汽通用五菱汽車が発表した水素燃料車も、スペック上では十分な性能を持っているように見える。
例えば、新世代パイロットカーのパワーシステムは、最高出力140kWで最高速度は時速165キロに達する。この統合パワーシステムは、純電気システム、燃料電池システム、電気駆動システムの3つのモジュール間でスマートなエネルギー相互作用モードを持ち、パワーセルのSOC状態に応じてエネルギーフローを適応的に調整することができる。また、高圧水素貯蔵ボトルの貯蔵圧力は70MPaで、一般使用レベルに達している。

また上汽通用五菱汽車の水素燃料電池車は、膜電極、バイポーラプレートからスタックシステムの統合まで、水素燃料電池スタックの完全な自律化を達成し、スタックの出力密度も国際的な上位レベルに達しているようだ。

上汽通用五菱汽車が発表した水素燃料車は、あらゆる面から見て業界の「ダークホース」として認められるほどで、まさに賞賛に値するものである。
しかしながら、今のところ水素燃料車には多くの問題があるのも事実だ。
例えば、水素燃料の供給源問題がある。
水素燃料車が環境に優しいのは事実だが、水素を作る過程は私たちが思っているほど環境に優しくはない。
中学校の化学では、水を電気分解して水素を得ることができ、それも酸素と水素だけを発生させ、汚染物質も出ないのに、これが環境に優しくないとはどういうことか?
水の電気分解による水素製造は確かに環境に優しいものだが、問題は水の電気分解による水素製造のエネルギー変換率が高くないことで、ただでさえ高い水素自動車のコストが、この方法によってさらに高くなってしまうからだ。

鉱物を燃やして水素を製造する方法は、水の電気分解よりもはるかに効率的だが、水素を製造する過程で多くの汚染物質や廃水が発生するという問題がある。
水素燃料へのアクセスは、水素自動車の開発を阻む障害のひとつであり、この問題には上汽通用五菱汽車も頭を悩ましていると思われるが、彼らはこれらの問題をどのように解決するつもりだろうか。
さらに、水素製造の問題が解決したとしても、水素の貯蔵や充填の問題はどのように解決するのか。継続的に使えるようにするための大規模なインフラ整備が必要となる。

そのため、水素燃料車がエネルギーを補給するためには、電気自動車と同様に水素補給ステーションを広く整備する必要があり、これが水素エネルギー自動車開発のもう一つの障害になっている。
考えてみると、現在の電気自動車の充電ステーションも十分に普及しておらず、メーカーによっては充電器セットを発売しているところもあるくらいだ。
充電ステーション協会が発表した充電基運用データによると、2021年8月時点でアライアンスのメンバーから報告された公共の充電基は合計98.5万基、全国の充電インフラの累積数は210.5万基に対し、今年9月末には中国のEV台数は678万台に達している。
水素充填ステーションの建設費は、充電ステーションに比べてはるかにコスト高で、小型の充電ステーション建設費用が100〜200万元(3,000万円ほど)であるのに対し、1日500kgの水素を充填する35MPステーションを建設する場合の費用は1,500万元(2億円以上)ほどになる。

この建設費では、世界共通の水素充填ステーションを作ることはほぼ不可能で、仮にステーションができたとしても、水素を充填するための費用を捻出するのはもっと難しいだろう。
これらの問題は、上汽通用五菱汽車だけでなく、水素自動車のリーダーであるトヨタ自動車にとっても、水素自動車の量産化と実用化の可能性を左右するものだ。
五菱の今回の発表は、彼らがこの分野の技術を持っており、そして水素自動車の開発に積極的に取り組んでいくことを示すものに過ぎない。
しかし、長い目で見れば、将来、水素製造の技術が成熟し、製造コストが下がり、水素補給のコストも下がれば、水素燃料自動車には明るい未来があるだろう。
その未来が来るまで、当面の間の新エネルギー車はやはり「電気自動車」であり、水素燃料車はまだまだ前衛的と言わざるを得ないのではないだろうか。
おわり